2021年02月20日
G7ステートメントの牽強付会(日本)
「東京オリンピック・パラリンピックでありますけれども、今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として、安全・安心の大会を実現したい、そうしたことを私から発言いたしまして、G7首脳全員の支持を得ることができました。大変心強い、このように思っています。」(2021年2月19日付「G7首脳テレビ会議についての会見」ら抜粋引用・首相官邸HPより)
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"We resolve to agree concrete action on these priorities at the G7 Summit in the United Kingdom in June, and we support the commitment of Japan to hold the Olympic and Paralympic Games Tokyo 2020 in a safe and secure manner this summer as a symbol of global unity in overcoming COVID-19."
(Statement by the leaders of the G7 / 2021年2月19日付英国政府HPより抜粋引用)
私たちは、6月に英国で開催されるG7サミットにおいて、これらの優先事項について具体的な行動を合意することを決意するとともに、COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメント(the commitment of Japan)を支持する。
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上掲抜粋部分以外、G7で「合意」した内容はCOVID-19を中心とする国際的課題(気候変動・貿易ルールなど)で占めている。2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関する部分は「とともに、(,and we) 」に始まり「日本のコミットメントを支持する(support the commitment of Japan)」に終わる上掲抜粋の数行のみ。
その数行に関して、菅首相は「人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として、安全・安心の大会を実現したい」と発信し、「G7首脳全員の支持を得ることができました」と首相官邸HPで述べている。本当だろうか?
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2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関する箇所の公式ステートメントの要点は以下の通り。
合意(agree)事項:「6月に英国で開催されるG7サミットにおいて、これらの優先事項(COVID-19を中心とする国際的課題)について具体的な行動」
支持(support)事項:「COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメント」
合意(agree):
当事者が互いに意見を出し合って互いが受け取ること=法的拘束力を持たせる当事者間の意思
支持(support):
当事者の一方が出した意見を受け取ること=うけたまわる
コミットメント(commitment):
責任を持って取り組むと決意(して約束する・実行)すること=責任を伴う約束とそのための具体的仕組み
従って、「今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として、安全・安心の大会を実現したい」への支持を得ることができました(首相官邸HP)などではなく、公式ステートメントに沿えば「COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメントをG7首脳全員に受け取っていただけました」が正しい。
つまり、「証」がどうこうとか「実現したい」といった願望に「わかった」とG7首脳が頷くようなことではなく、「安全・安心(in a safe and secure manner)に開催する」という日本の責任を伴う決意(「日本のコミットメント」)に「わかった」とG7首脳が頷いたということである。
願望(したい)と決意(する)は大違いで、後者が「日本のコミットメント」であることから、日本は責任を伴う決意を表明したことになる。「安全・安心に(in a safe and secure manner)」について責任を持って取り組むとその決意を国際社会に表明したことに他ならない。首相官邸HPにあるようなあたかも「開催への支持をG7首脳全員に取り付けた」かのようなことではない。
従って、「大変心強い、このように思っています(首相官邸HP)」はその責任を伴う決意を受け取った日本以外の首脳が言うべきことであるのに、あたかも大会開催にG7首脳全員に合意と協力を取り付けたかに我々に印象付ける言葉を菅首相は並べている。しかし、「日本のコミットメント」であって「G7のコミットメント」でなく、「支持」であって「合意」ではない。そのような印象操作は甚だ牽強付会と言わざるを得ない。
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「COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメントを支持する」の前段部分についても考察を要する。この部分は「日本のコミットメント」に繋がるから、日本が言っていることで、日本以外の首脳が言っていることではない。「合意することを決意するとともに、」までのG7首脳全てが合意する部分とは切り離されている。
「象徴(symbol)として」は「COVID-19を克服するための世界的な団結」を受けて、「開催」に係っている。
「(オリンピック競技大会の)開催」が本来有している象徴性とは、そのオリンピック・リングの示す「相互の結合、連帯」でありCOVID-19の有無に関わらず不変の凝集した象徴性と言えるが、そこに、「COVID-19を克服するための世界的な団結」を照らし合わせ、引照した象徴性にしている。この引照した象徴性の別の典例は「〇〇五輪」である。「〇〇」と照らし合わせる事柄が「ふくしまの復興」から「コロナに打ち勝った証」、さらに「新型コロナに関係なく」(IOCコーツ副会長)と変遷し、変遷すればするほど、五輪=オリンピック・リングの示す「相互の結合、連帯」なる象徴性とかけ離れていく。
(象徴天皇の「象徴性」に、勝手に権威を照らし合わせることも同様。拙稿:「水戸黄門って先の中納言と先の副将軍とどっちなんですか?」)
「COVID-19を克服するための世界的な団結」それ自体には何の異議もないが、それが「〇〇」として「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催する」に照らし合わせることに大変な違和感がある。つまり、上述の例と同様、その引照が正しくないからだ(こじつけにしか思えないからだ)。
「相互の結合、連帯」が「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催」だからと言って、「COVID-19を克服するための世界的な団結」であると論理なく飛躍することは牽強付会でしかない。「安全・安心に」は科学に照らして証を立てることであれば、その証に「競技大会の開催」は全く関係がない。
証=ある事柄が確かであるよりどころを明らかにすること。証明。
むしろその「開催」が「COVID-19を克服」することへの最大阻害要因(医療資源がオリンピック開催のために費やされる)や最大感染拡大リスク(安心・安全とは逆の不安・危険)となっている。
それら牽強付会も含めて「日本のコミットメント」としてうけたまわっておく、ということ。
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事程左様に、牽強付会ぶりは安倍政権から菅政権に引き継がれ内政ではそれが政権に都合し続けてきた(拙稿「牽強付会とは」)。
" 何が何でも開催" の菅政権。G7ステートメントまでも曲げて国民につたえる。内政はそれで良いかもしれないが、国際社会での日本の立ち位置はどうなっているのだろうか?(拙稿:「立ち位置を知ること」)
「G7の」ではなく「日本の」コミットメント(決意)でしかない開催は、「(その決意は)わかった」とは相手に言ってもらえても、決して「合意」を得られない国際社会での日本の立ち位置を表しているように思えてならない。
(おわり)
posted by ihagee at 08:28| 日記