2021年02月23日

サイアノタイプ - その115(引き伸ばし機)



前回記事では、LPL Model 7451の元にあったディフューザ・ボックス(散光箱)に代えてスポットライト用のフレネルレンズ、Aputure フレネル 2xを使い機能的にコンデンサレンズと同様の集散光となるよう7451を改造した上でのプリント例を紹介した。

しかし所詮スポットライト用のフレネルレンズであるから、集光させるとフレネル特有の同心円状の波紋が印画紙面上に薄っすらと見えるなど引き伸ばし機のコンデンサレンズ代わりにするには癖があり過ぎた。物は試しと昭和11年(1936)製乾板用ハンザ特許引き伸ばし機(Anastigmat F=125, 1:6.3)のコンデンサレンズ(直径約16cm)を転用した所、やはりコンデンサレンズの方が集光性が良い。

50809727426_6c9c6dc464_k.jpg


----

さて、本ブログの「フィルム・レコーダ(デジタル⇒アナログ変換)」カテゴリーで紹介したポラロイド社のフィルムレコーダーHR 6000で135(35mm)フィルムを未だ露光させていないことにハタと気付いた。フィルムテーブルとデジタルカメラを使っての露光試験は「フィルム・レコーダ(デジタル⇒アナログ変換)再発見(続き2)」で報告した通り。

写真印画紙と遜色のないコロタイプ印刷をスキャンした画像データをその変換に用いた。この印刷が歓迎されていたのは今から100年前。幸いにもその当時の写真ポストカードはこの印刷を用いたものが多く、アンティークながらeBayで安価に入手可能。ポストカード自体が網点(オフセット印刷)を持たないコロタイプゆえ、スキャンにも十分耐える写真画質ということである。

ガブリエル・レイ(Gabrielle Ray)- その7(ポストカード)」で紹介したポストカードの多くがこのコロタイプである。EPSON GT-X980を使い16ビットグレイスケール&35mmフィルムのアスペクト比(3:2)でスキャンした画像データをHR 6000の最大解像度Width: 4096 pixels / Height: 2732 pixelsとなるようにPowerBook G3 Wallstreet上のPhotoshopで加工した。

この際のパラメータは以下の通り。
プリントサイズ:
Width 10.834 inch
Height 7.226 inch
Resolution 148.85 pixels / inch
Pixel dimensions: 32.1 M

35mmフィルムはFuji Acros II 100(36枚撮/モノクロ・ネガ)を用意し、HR 6000のスプーラであるPolaroidデジタルパレット v4.2.1のフィルムテーブルからFuji Neopan 100HRを選択、明るさ設定は普通(0)でB露光(ワンパス)を行った。キャリブレーションされていないこのHR 6000のCRTではRGB(3パス)は画像ズレを起こす可能性があるのでRGB露光は諦めた。

このデジタル⇒アナログ変換で作成した35mmフィルムには、「サイアノタイプ - その52(引き伸ばし機)」で紹介した35mm専用のLucky Attache-35(EL-Nikkor 1:2.8 f=50mm)を使うことにする。LPL Model 7451用の100W SMD UV光源では大きすぎるので50W SMDに代えた。

50885575367_60b5007bca_k (1).jpg


以下、作例(Cotman Water Colour Paper B5 Fine / 約五時間露光):

トーニング無:

50970533313_e1a4cca3b9_k.jpg

(比較迄、プリントに用いた35mmフィルムを並べる)
50929614463_ddca3ecafb_k.jpg

50930263633_5ab7c1855f_k.jpg


----

ジャスミン茶でトーニング:

50931662476_d38cb2f792_k.jpg

50931664238_fac22a3498_k.jpg

50934263588_ec0bbe6e0a_k.jpg

50938560966_1a19ac7df1_k.jpg

50948172493_f8c0391b24_k.jpg

50964114237_5f441ddbc5_k.jpg

50960428587_e8ed24ec80_k.jpg


----

ジャスミン茶でトーニング後、軽く漂白

50969088477_a60d24397c_k.jpg


以上、いずれもガブリエル・レイ(Gabrielle Ray)。

----

サイアノタイプでは水から上げたばかり(濡れた状態)のプリントは実に瑞々しい。しかし、乾くとこの瑞々しさが途端に失われてしまう。そこで、艶有りニス(水性)で表面をコートしてその状態を保つ手法が一般的である。ニスはモノによってはプリントの色目を変えてしまうが、セリア(百均)の水性ニスはその心配がない。

プリントが生乾きの状態でスポンジ刷毛で薄くニスを塗布するが、紙が乾くにつれて反ってしまうことが多い。特に乾燥している今の時期は難しい。ニスの代わりにフィルムでプリントをコートしたらどうだろうかと思い付いた。Amazonからナカバヤシのラミネータ(HEL-02A4)と100μmの純正フィルム(B5/100枚)を購入。B5版のCotman Water Colour Paperは厚紙ゆえに温度は高めの150μm側設定にしてラミネートを行った。

結果は至極良好。反りなくフィルムがプリントに密着しフィルムの光沢が瑞々しさに寄与している(色目が鮮やかになり且つ均一に艶が出てニスよりも断然良い)。適度な強度および防汚・防水性があるから額に入れずともそのまま飾ることができる。

(おわり)


posted by ihagee at 18:20| サイアノタイプ

2021年02月20日

G7ステートメントの牽強付会(日本)



「東京オリンピック・パラリンピックでありますけれども、今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝ったとして、安全・安心の大会を実現したい、そうしたことを私から発言いたしまして、G7首脳全員の支持を得ることができました。大変心強い、このように思っています。」(2021年2月19日付「G7首脳テレビ会議についての会見」ら抜粋引用・首相官邸HPより)

----

"We resolve to agree concrete action on these priorities at the G7 Summit in the United Kingdom in June, and we support the commitment of Japan to hold the Olympic and Paralympic Games Tokyo 2020 in a safe and secure manner this summer as a symbol of global unity in overcoming COVID-19."
(Statement by the leaders of the G7 / 2021年2月19日付英国政府HPより抜粋引用)

私たちは、6月に英国で開催されるG7サミットにおいて、これらの優先事項について具体的な行動を合意することを決意するとともに、COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメント(the commitment of Japan)を支持する

----

上掲抜粋部分以外、G7で「合意」した内容はCOVID-19を中心とする国際的課題(気候変動・貿易ルールなど)で占めている。2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関する部分は「とともに、(,and we) 」に始まり「日本のコミットメントを支持する(support the commitment of Japan)」に終わる上掲抜粋の数行のみ。

その数行に関して、菅首相は「人類がコロナとの戦いに打ち勝ったとして、安全・安心の大会を実現したい」と発信し、「G7首脳全員の支持を得ることができました」と首相官邸HPで述べている。本当だろうか?

----

2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関する箇所の公式ステートメントの要点は以下の通り。

合意(agree)事項:「6月に英国で開催されるG7サミットにおいて、これらの優先事項(COVID-19を中心とする国際的課題)について具体的な行動」
支持(support)事項:「COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメント

合意(agree):
当事者が互いに意見を出し合って互いが受け取ること=法的拘束力を持たせる当事者間の意思
支持(support):
当事者の一方が出した意見を受け取ること=うけたまわる
コミットメント(commitment):
責任を持って取り組むと決意(して約束する・実行)すること=責任を伴う約束とそのための具体的仕組み

従って、「今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝ったとして、安全・安心の大会を実現したい」への支持を得ることができました(首相官邸HP)などではなく、公式ステートメントに沿えば「COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメントをG7首脳全員に受け取っていただけました」が正しい。

つまり、「証」がどうこうとか「実現したい」といった願望に「わかった」とG7首脳が頷くようなことではなく、「安全・安心(in a safe and secure manner)に開催する」という日本の責任を伴う決意(「日本のコミットメント」)に「わかった」とG7首脳が頷いたということである。

願望(したい)と決意(する)は大違いで、後者が「日本のコミットメント」であることから、日本は責任を伴う決意を表明したことになる。「安全・安心に(in a safe and secure manner)」について責任を持って取り組むとその決意を国際社会に表明したことに他ならない。首相官邸HPにあるようなあたかも「開催への支持をG7首脳全員に取り付けた」かのようなことではない。

従って、「大変心強い、このように思っています(首相官邸HP)」はその責任を伴う決意を受け取った日本以外の首脳が言うべきことであるのに、あたかも大会開催にG7首脳全員に合意と協力を取り付けたかに我々に印象付ける言葉を菅首相は並べている。しかし、「日本のコミットメント」であって「G7のコミットメント」でなく、「支持」であって「合意」ではない。そのような印象操作は甚だ牽強付会と言わざるを得ない。

----

「COVID-19を克服するための世界的な団結の象徴として、今夏、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催するという日本のコミットメントを支持する」の前段部分についても考察を要する。この部分は「日本のコミットメント」に繋がるから、日本が言っていることで、日本以外の首脳が言っていることではない。「合意することを決意するとともに、」までのG7首脳全てが合意する部分とは切り離されている。

象徴(symbol)として」は「COVID-19を克服するための世界的な団結」を受けて、「開催」に係っている。

「(オリンピック競技大会の)開催」が本来有している象徴性とは、そのオリンピック・リングの示す「相互の結合、連帯」でありCOVID-19の有無に関わらず不変の凝集した象徴性と言えるが、そこに、「COVID-19を克服するための世界的な団結」を照らし合わせ、引照した象徴性にしている。この引照した象徴性の別の典例は「〇〇五輪」である。「〇〇」と照らし合わせる事柄が「ふくしまの復興」から「コロナに打ち勝った証」、さらに「新型コロナに関係なく」(IOCコーツ副会長)と変遷し、変遷すればするほど、五輪=オリンピック・リングの示す「相互の結合、連帯」なる象徴性とかけ離れていく。
(象徴天皇の「象徴性」に、勝手に権威を照らし合わせることも同様。拙稿:「水戸黄門って先の中納言と先の副将軍とどっちなんですか?」)

「COVID-19を克服するための世界的な団結」それ自体には何の異議もないが、それが「〇〇」として「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を安全・安心に開催する」に照らし合わせることに大変な違和感がある。つまり、上述の例と同様、その引照が正しくないからだ(こじつけにしか思えないからだ)。

「相互の結合、連帯」が「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催」だからと言って、「COVID-19を克服するための世界的な団結」であると論理なく飛躍することは牽強付会でしかない。「安全・安心に」は科学に照らして証を立てることであれば、その証に「競技大会の開催」は全く関係がない。

証=ある事柄が確かであるよりどころを明らかにすること。証明。

むしろその「開催」が「COVID-19を克服」することへの最大阻害要因(医療資源がオリンピック開催のために費やされる)や最大感染拡大リスク(安心・安全とは逆の不安・危険)となっている。

それら牽強付会も含めて「日本のコミットメント」としてうけたまわっておく、ということ。

---

事程左様に、牽強付会ぶりは安倍政権から菅政権に引き継がれ内政ではそれが政権に都合し続けてきた(拙稿「牽強付会とは」)。

" 何が何でも開催" の菅政権。G7ステートメントまでも曲げて国民につたえる。内政はそれで良いかもしれないが、国際社会での日本の立ち位置はどうなっているのだろうか?(拙稿:「立ち位置を知ること」)

「G7の」ではなく「日本の」コミットメント(決意)でしかない開催は、「(その決意は)わかった」とは相手に言ってもらえても、決して「合意」を得られない国際社会での日本の立ち位置を表しているように思えてならない。

(おわり)

posted by ihagee at 08:28| 日記

2021年02月19日

「完璧な選択」と絶賛した意味



” 橋本聖子氏が東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長に就任したことについて、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は18日、「就任を心から祝福したい。夏冬合わせて五輪に7度出場してメダルも獲得し、団長も務めた経験を持つ彼女は、完璧な選択だ」と絶賛する声明を出した。”
(朝日デジタル 2021年2月18日付記事より引用)

----

国会議員の身分(党籍もそのまま)は不問にするらしい。オリンピック憲章の禁じるスポーツへの政治介入にならないとIOCは判断したことになる。過去の大会で組織委(OCOG)の会長が現職の政治家(議員)であった例は寡聞にして知らない。また、2014年のソチ大会閉会式後のパーティーでの高橋大輔氏に対する行為はその地位(日本選手団団長・日本スケート連盟会長:当時)を利用した明白なパワハラであるが(「ハグだ」と解釈して済むようなセクハラ問題ではない)、これも問わないようだ。

それでもバッハIOC会長にとって「完璧な選択」と絶賛する意味を考える必要がある。

----

組織委の長となった人物の(過去の)パワハラやその選考過程でのあからさまな政治介入(議員身分含む)を不問にしたことで、開催までの今後数ヶ月間、IOCは国際社会からの批判に晒され続け開催気運はなおさら後退するだろう。それでも無観客なりで強行開催すれば、それら問題は不問の大前例となる。これはIOCにとって決して良いことにはならない。オリンピック憲章の原則を曲げては、その原則に則った今後の大会に支障が生じるからだ。ロシア・ドーピング問題へのペナルティや2016年リオ大会の大会組織委員会会長逮捕(IOC理事買収容疑)にみるように、開催後にIOCは自ら身辺の身綺麗さをこれ見よがしに示すかに問題のけじめを開催都市と政府につけさせてきた。招致段階から何かと悪い噂が絶えない東京大会も開催したとしても、その終了と共に国際陸連絡みのJOC裏金疑惑共々、これらの問題がIOCや関係団体によって責任の所在共々総括される可能性が高い。参院法務委員会質疑ですでにその違法性が明らかとなっているオリンピック関連商標のライセンス問題は政治的解釈の余地のない商標法違反ゆえ今さら言い逃れの余地がない。国際社会で取り沙汰されればスポンサー企業を巻き込んで国際的な信用問題に発展することは間違いない。組織委を私物化し違法性を知りつつ電通共々巨額なライセンスビジネスに血道をあげてきた森ファミリーは首を今のうちに洗っておいた方が良い。

他方、開催中止の場合(IOCがそのように決定する場合)、中止決定に至る要因(新型コロナウイルス)にこれらの問題を含めれば(おそらく、国際社会が今般の人事を様々問題視するだろう)悪しき前例を作ることなくIOCは仕切り直すことが可能となる。開催が使命の実質IOCのエージェントとしての組織委(TOCOG)は中止と共に用済みとIOCに尻尾を切られ、中止に伴う全責任は債務ごと日本政府が負うことになる。組織委人事への政治介入(日本政府のオリンピック丸抱え)が結果としてIOCの責任逃れに口実を与えたことになったと、その時になって気付いても遅い。実質IOCのエージェントである組織委だからこそ(開催都市契約では、組織委は第三者参加(intervention)の位置付けで実質IOCの側に立っている... 詳細:「組織委はIOCのエージェント(続き)」)、開催都市契約の直接の当事者ではない政府はそのIOCの実質エージェントたる組織委とは一定の距離を保たなければならないが、それが出来なかったがゆえに、ツケが回ることになる。

機を見るに敏、これまでも幾度となく態度を翻してきたIOC(バッハ会長)だからこそ、その言うところの「完璧な選択」は額面通り受け取るわけにはいかない。開催中止の場合でも今般の人事がIOCにとって「完璧な選択」となる意味を考える必要がある。

開催権返上とその後の調停(IOCとの痛み分け・拙稿:理念なき狂騒(三方一両損の方策))を少しでも考えに入れていれば、IOCに責任逃れの口実を与えるような今回の政府主導の人事(五輪相からのスライド人事)はあり得ない。いずれは勝利・神風が吹くと意気込むあまり講和(調停)のタイミングを逃しポツダム宣言受諾で無条件降伏した過去の歴史と被る。それも「承知して頂く・わきまえて頂く」が悲しいかな「神の国(森喜朗)」の轍なのだろう。

(おわり)


posted by ihagee at 06:11| 日記