2020年09月04日

ハブる空気



「ハブる・ハブられる」は若者言葉らしい。私など中高年世代にとっては「シカトする・シカトされる」だろう。仲間外れにする・される、の意味では同義となる。

「ハブる・ハブられる」は言葉の上では、本来活用形のない(体言=名詞)に(る)を加えて動詞にした新造語のようであるが、「ハブ」なる体言は蛇ぐらいしか思い浮かばない。

「葬る・葬られる」という動詞と同源の「葬る(はぶる)・葬られる(はぶられる)」に由来するのではないか。「死体を埋葬する」という本来の意味から派生して「闇から闇に葬る」など「表面に現れないようにする。世間に知られないようにする。また、捨て去る。」の意味で使うことが多い。その意味を「仲間外れにする・される」に「ハブる・ハブられる」を当てているとしたら随分と剣呑である。

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「僕か。僕は叡山へ登るのさ。――おい君、そう後足で石を転がしてはいかん。後から尾いて行くものが剣呑だ。――ああ随分くたびれた。僕はここで休むよ」(夏目漱石「虞美人草」から)

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山登りに石を転がしては危ない(剣呑)から止せとの件だが、わざと転がして後から尾いて来ないようにするのが「ハブる」に感じる剣呑さなのかもしれない。本当に石を転がして後から尾いて行くものを死なせては犯罪なので「後から尾いて来させない」ようにするには「村八分」が相当なのだろう。ムラ社会での十の共同行為の内の八分から特定の住民を排除するがその意味で、換言すれば、排除する側はその社会の行為の八分で空気を読み合っていることになる。

安倍政権下「忖度」が大手を振って罷り通り、自由に意見をする者が爪弾きにされた。「自由=個人=無責任」なるレッテル貼りに政権は血眼になり「自由」「個人」狩りへの社会的同調圧力をマスメディアを介して増幅し続けてきた。その結果、あることもなかったことにしたり、その逆にやってもいないのにやったふりをする(虚構・劇場化)、嘘の上に嘘を重ねる、巧言令色・舌先三寸のポエムにふわっと巻かれていれば良しとする空気が充満し、世の中全体が思考停止に陥っている。すべき議論すら空気に委ね、「生殺与奪の権」も誰かにあずけてしまう。責任は感じても取らない・取ることを要求しない社会は互いに言葉を飲むばかりの閉塞感に満ちてるのではないか。

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"朝日新聞社が2、3日に実施した世論調査(電話)で、第2次安倍政権の7年8カ月の実績評価を聞くと、「大いに」17%、「ある程度」54%を合わせて、71%が「評価する」と答えた。「評価しない」は、「あまり」19%、「全く」9%を合わせて28%だった。(朝日新聞 Digital 2020年9月3日配信から)”

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この結果に私は息苦しいほどの剣呑を覚えた。ハブる側の空気感が71%の「評価する」に現れているのではないか?

”もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く「空気」であり、破滅の後にもし名目的責任者がその理由を問われたら、同じように「あのときは、ああせざるを得なかった」と答えるであろう” (「空気」の研究・山本七平著から)

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その空気感を目一杯醸成し最大限に政治利用した名目的責任者(安倍総理)が「破滅も所詮国民の空気のせいだ」と言わんばかりにその歴史検証すらできないように公文書すら隠滅・改竄すれば、またぞろ71%のふわふわした空気が安倍晋三氏の類系を為政者にすることだろう。鬼畜米英から対米隷属へと一夜の内に頭を切り変えてもそれは単に状況に合わせただけのことで、その根底に流れる「暗黙知」や「互いに察し合い」、論理や科学的検証よりも「情況がそうさせた」と空気に結論する意識(拙稿「運・不運でかたづけるなら神仏の世界」)は太古から一切変わっていない。その「情」たる有様は心の内であって文字に表せないゆえに厄介なのである。そこでは、賛美者、利害者ばかりを侍らしそれらと情実(秘め事)を交わすことこそ政治と嘯く人誑しがいる。桜を見る会はその秘技の最たるものだった。

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その「安倍政治」において、「自由」は経済的自由主義や政治的イデオロギーの内に留めおき、決して個人の独立した思想の上にあってはならないとしてきた(その「自由」は一握りの者のためにある=強者はさらなる自由を求め、弱者は平等を叫ぶ「新自由主義」)。ゆえに個人の思想よりも集団的意識を重んじ、日本古来の伝統や国粋ばかりを吹聴鼓舞し、国際社会に於いて日本の存在を神聖視し剰えその意識の発露たる同調と排除(差別)を社会に蔓延させる、危うさを含んだ幼い思考である(拙稿『自由主義・民主主義』)。「自由でも民主でもない」政党に変質した自民党。その変質すら気づかない集団的意識。

危うさを含んだ幼い思考がハブる空気に満ちた71%の「評価する」とあれば、またも破滅を招くことになる。

(おわり)

posted by ihagee at 06:59| 日記