2018年07月16日

サイアノタイプ - その45(引き伸ばし機)



昭和11年(1933)製の乾板用のハンザの引き伸ばし機(ハンザ特許引き伸ばし機)を用いたサイアノタイプ・プリントの続き。

この引き伸ばし機は大変面白い。戦後の金属製の隙間なく作りこんだ引き伸ばし機と異なり、木製の隙間だらけゆえに却って色々細工や工夫を試すことができる。

さて、一枚のコンデンサーレンズに特殊硝子板二枚を使った「集散光式」がハンザのこの「特許引伸器」の本来の仕様だが、私のは二枚のコンデンサーレンズを使う集光式に仕様が改められている。

集光式ならではの緻密な表現はサイアノタイプ・プリント上でも確認できるが、原板枠を差し込む部分にその通り乾板を差し込むと如何せん印画紙上で中央に集光してしまう。白熱球の光が拡散する光源と異なるUV LEDユニット光源だからであろう。コンデンサー二枚使用の集光式を経てさらに暗い引き伸ばし機レンズから落とされるUV LEDユニットの光はさすがに弱い。そこで、アドオンされているコンデンサーレンズ一枚を使わず、コンデンサー室のコンデンサーレンズ一枚で焼いてみた(ここまで前回の報告の通り)。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング)

用いた乾板は1900年頃のもの。乾板としては5" x 7"(インチ)=10.5 x 16cm相当とかなり大きいが乾板を収める原板枠を使わず直接乾板を枠穴に差し入れることができる。元の乾板には百年以上前の一瞬が驚異的な鮮度で保存されている。

表現上の面白さはあるが、やはり四隅までプリントしたい。

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さて、ではどうすれば良いのか?下部コンデンサーレンズは本来特殊硝子板をその上下に配しているが、それら特殊硝子板がない私の引き伸ばし機では空間が存在している。都合良く、コンデンサーレンズの下側に特殊硝子板を本来収めるための空間があるので、ここに乾板を挿入してみた。さらに上部の筒に収まったコンデンサーレンズを筒ごと外して(二枚のコンデンサーレンズを経由するとさすがに印画紙に届くLED光が弱い為)、光源となるUV LEDユニットを高い位置に吊るしてみた。間に合わせだが紙で筒を作り内側をアルミ箔で覆って印画紙面上の顕像を見ると四隅まで光が拡散している。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(間に合わせの紙筒で見てくれが大変悪いが・・)

そこで、同じ乾板を用いてプリントを試みた。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital negative processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬・トーニング無)

中央に集光する問題は解消され、大変綺麗に仕上がった。コンデンサーレンズ一枚だけでも可能だと判った。通常のコンタクトプリンター&太陽光(又はUV LED光源(拙稿「サイアノタイプ - その7(サイアノタイプ・ムービー)」で取り上げたUV露光ユニット)では数分で焼きあがる分、その紫外線の強さゆえに、コントラストを極端につけたデジタルネガでなければならないが、本稿のUV LEDの弱い紫外線で数時間かけて焼く方法であれば、オリジナルのアナログネガをそのまま何ら手を加えずにサイアノタイプ印画紙上に表現することができる。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital negative processing

(もう一枚・五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング)

同じ乾板を用いても微妙な条件の違いが結果に現れるから面白い。幼女になったり少女になったり・・。顔の陰影や配置や焼き込みの違いは表情に直結しているようだ。

同じく5" x 7"(インチ)=10.5 x 16cm相当の大きさの1900年頃の乾板からプリント。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital negative processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング)

オリジナルは
Ultimate beauty lies in an antique dry plate / original glass plate scanned by Epson GT-X980 / Antique Vintage Original 1900s Glass Plate Negative / Measures 5" x 7"


一部を焼き付けたことになる。いまどきのデジタル写真(磁気記録媒体上のデータ)が百年後にこのようにデータとして残る保証は一つとしてない(拙稿『「大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん」(<ビット腐敗>問題)』)。便利さと引き換えにとんでもない脆弱性を我々の時代は受け入れているのではないだろうか?

乾板写真に触れるたびに、十九世紀にすでに確立されていた技術の確かさに脱帽するばかりである。この再発見をいまの若い人々は知らない。嘘やバーチャリティが溢れかえり「確かさ」が日々失われていく今の世の中だからこそ、リアリティ・ファクトそのものの「確かさ」を過去の技術に学ぶことが大切であると私は思う

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さらに比較例。
ニューヨークのModern Photography Schoolの学生(MAXWELL)が1940年代に撮影した巨大なネガフィルムを用いた。7" X 5”(約18cm x 13cm相当)のネガフィルムもこのハンザの引き伸ばし機であれば、下部コンデンサーレンズ下の空隙に差し込むことができる。

まずはコンデンサーレンズ二枚・UV LED光源は上部コンデンサーレンズ上に平置きした場合。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング)

中央に集光した状態でプリントされた。

そして、コンデンサーレンズ一枚で光源であるUV LEDユニットを高い位置に吊るした場合:

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング

中央に集光する問題は解消されている。縦に白い線が見えるがこれはサイアノタイプの薬剤の塗布ムラ。全体にもう少し焼き込んだ方が良かったかもしれない。

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さて、この引き伸ばし機のレンズボードは「あおり」を行うことができる。私の所有するRolleiflex SL66にもこのアオリ機能がある。虫眼鏡レンズとLomography Redscale XR50-200を組み合わせて撮影した例:

Rolleiflex SL66 with Homemade lens (using a x2 magnifier lens), Lomography Redscale XR 50-200,  Location: Nikko (Tochigi-Pref.), January 7, 2017


Rolleiflex SL66 with Homemade lens (using a x2 magnifier lens), Lomography Redscale XR 50-200,  Location: Nikko (Tochigi-Pref.), January 7, 2017

(拙稿「Rolleiflex SL66 - 日光の旅(その1)」より)

ここでは、前景の一部のみに焦点が合うように「逆あおり」(逆ティルト撮影)使用した。現実の風景をあたかも鉄道模型やジオラマをマクロ撮影したかのように描写することを狙っている。

撮影の反対の焼き付けでこの「逆あおり」を試みれば、全体にピントの合った風景写真でもマクロ撮影したかの描写に変えることが期待できそうだ。次回はその報告をしたい。

(おわり)

posted by ihagee at 08:54| サイアノタイプ

2018年07月11日

サイアノタイプ - その44(引き伸ばし機)



前回に引き続き昭和11年(1933)製の乾板用のハンザの引き伸ばし機(ハンザ特許引き伸ばし機)を用いたサイアノタイプ・プリント。

前回はコンデンサーレンズを一枚外した状態(コンデンサーレンズ一枚のみ)でプリントしたが、今回はコンデンサーレンズ二枚でプリントしてみた。光源は前回と同じくLucky II-Cで使っていたUV LEDユニットを電球代わりに使って、1900年頃に撮影された5" x 7"(インチ)=10.5 x 16cm相当の乾板を原板枠を使わずにその差し込み口に直接置いて、vif Art (B5 H.P. surface) を用いたサイアノタイプ印画紙に焼き付けた。レンズはAnastigmat F=105, 1:6.3を開放で使用。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(コンデンサーレンズは一枚はコンデンサー室、もう一枚は筒に収まってその上にUV LEDユニットとともに載せてある。

相変わらずセンターに集光している(改善の余地有)が像の緻密さ・光の拡散具合ではこの方が良いようだ。レンズボードの傾きを直したので、前回のプリントで傾き加減だった像が正しく表現されている。雰囲気があるプリントになった。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング)

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬後、ジャスミン茶でトーニング / 感光剤の塗りムラが白い筋となって残った)

サイアノタイプの感光剤(水溶液)のストックがなくなってきたので、新たに水溶液を作ってvif Art (B5 H.P. surface)に塗布したが、まだ液が熟れていない為か紙へののりが悪く刷毛目がつきやすい。二枚目のプリントはそれが白い筋となって出てしまった。

ガラス乾板は他に幾つもあるので試してみたい。

(おわり)


posted by ihagee at 04:12| サイアノタイプ

2018年07月09日

サイアノタイプ - その43(引き伸ばし機)


乾板用のハンザの引き伸ばし機(ハンザ特許引き伸ばし機)をヤフオクで購入した。昭和11年(1933)年に近江写真工業社がハンザブランドで発売。民生用国産引き伸ばし機としては最初のものだろう。写真用品製造販売ですでに市場を開拓していた同社のブランドネームを借りてハンザキャノンとして引き伸ばし機・カメラの製造販売に乗り出し、瞬く間に先人を追い抜いたキャノンの社史に最初に登場するのもこの引き伸ばし機である。

いわば、博物館級(事実、産業博物館で展示されている)であるがヤフオクの世界では廃品同然だった。フィルムでなく乾板専用の引き伸ばし機だからかもしれない。フィルムばかりでなく乾板も手元にある私からすれば、襷に長いに越したことはなく滅多にない出物として落札した次第である(写真は以下に述べる清掃・ニスがけ前の状態・かなり汚れていた)。

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ハンザ特許引き伸ばし機はコンデンサー二枚使用の集光式でなく、コンデンサー無しの散光式でもない。双方の特徴を兼ね備えた「集散光式」なる独特の様式だそうだ。つまり、コンデンサー一枚と特殊硝子板二枚(デフューザー)の構成がその方式のようだ。

スクリーンショット 2018-07-09 16.21.57.png


しかし、オークションで落札した同機は少し様子が違っていた。コンデンサー室に収まるコンデンサーレンズは一枚あるものの、特殊硝子板がない。その代わり、筒に収まったコンデンサーレンズが一枚付いていた。つまり、コンデンサー二枚使用の集光式となっている。この時代、ユーザの要望に応じて近江写真工業社があつらえたのかもしれない。

乾板を収める原板枠には手札判(8×10.5cm)が収まる。それ以上のサイズでも枠を使わず直接乾板を枠穴に差し込めば使える。ハンザ特許引き伸ばし機は実はこの原板枠が三種類用意されており、それぞれに対応した引き伸ばし機が三種類販売されていたようだ。他は大名刺判 (6.5×9cm)とベスト版。

つまり、私が購入したのは原板枠が最も大きな引き伸ばし機となるのだろう。昭和11年(1933)年だから御年85才。Voigtländer Superb(1933年製前期型・Skopar 75mm F/3.5)と同い年である。いずれも戦争の時代をくぐり抜けてきた。Superbが自己流のオーバーホールで実用可能となったように(Voigtländer Superb 顛末記)、この歴史的な引き伸ばし機も実用化すべく清掃とニスがけを行った。木部は全て桜材であるが経年の汚れでニスが剥げかかっていた。本来なら全て剥がした後でニスを塗り直す必要があるが、横着してユザワヤで購入したデコパージュ用の艶有ニスを塗ってみた。結果は良好。飴色になった。黒い鉄部も同様にニスをかけて元々の塗装の剥離を抑えた。このニスは重ね塗り可能なので刷毛目が残った部分もあとで塗り隠すことができる。

蛇腹部分はピンホールがあるが破れてはいないのでこのまま使用。カメラのシャッター布幕なら致命傷だが・・(拙稿「Exakta Varex IIa」)。レンズはAnastigmat F=105, 1:6.3と暗いレンズだが、カビや傷がなく良好。絞りも正常に動作した。焦点調節ネジ部はグリスアップし動きが良くなった。なお、レンズボードはあおりが効く。

鋳鉄の支柱は縦横位置変更装置があり、本体を水平にすることもできるようだ。ランプハウス(笠)の上部に本来ならある筈の電球ソケットとコードは無いが、本稿のUV LEDユニットを使う分にはそれで構わない。

コンデンサーレンズもAnastigmatレンズも良く見ると小さな気泡がある。気泡がレンズ中央に無い限りは合格となっていたのだろう。無論、焼き付けに何ら影響しない。

物は試しと、Lucky II-Cで使っていたUV LEDユニットを電球代わりに使って、5" x 7"(インチ)=10.5 x 16cm相当の乾板を原板枠を使わずにその差し込み口に直接置いて、サイアノタイプを行ってみた(vif Art (B5 H.P. surface) を用いたサイアノタイプ印画紙使用)。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing


コンデンサー二枚使用の集光式を経てさらに暗い引き伸ばし機レンズから落とされるUV LEDユニットの光はさすがに弱い。そこで、アドオンされているコンデンサーレンズ一枚を使わず、コンデンサー室のコンデンサーレンズ一枚で焼いてみた。特殊硝子板二枚(デフューザー)が無いためか、中央に集光してしまったが(UV LEDの位置を本来電球のある位置まで引き上げれば全体に光がまわるようだが)まずまずの出来となった。

5" x 7"(インチ)=10.5 x 16cm相当の乾板は拙稿「乾板写真の美」で取り上げた1900年頃のもの。弱いとはいえども紫外線を当てることに躊躇いがあったが、五時間照射した後でも見た目何ら影響を受けなかった。熱線を含む太陽光に晒す方がよほどダメージが大きい筈だ。フィルムよりも撮像面積の大きなガラス乾板だからといって、コンタクトプリンターに挟んで太陽光に晒して焼くことだけはやめた方が良いと思う。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from a photographic dry plate (glass plate) without using a conventional contact printer and digital processing

(五時間焼き付け・水洗オキシドール漬・トーニング無)

中央に集光してしまったが、それなりに雰囲気が出た。次は全体に光がまわるように UV LEDユニットの配置を工夫してみたい。本来の銀塩プリントでの活用ではないが、サイアノタイプの印画紙を抱いてハンザ特許引き伸ばし機がどことなく嬉しそうにしている。廃品やオブジェにされるよりはよほど幸せだろう。

(おわり)

posted by ihagee at 17:00| サイアノタイプ